持ち家か賃貸か？将来の修繕費を考える

持ち家と賃貸、どちらが良いか、というテーマはいつの時代にも議論されてきました。持ち家と賃貸、それぞれのメリット・デメリットを比較したうえで、住まいの計画を立てることが重要となります。今回はその中でも、修繕費に着目して比較をしていきたいと思います。

新築戸建てなどの広告を見ると、月々数万円の返済額で購入可能といったセールストークを良く見かけます。賃料を払うくらいなら同額でローン返済をする方がお得です、ということが謳われています。最近は新築戸建ての数が増加しているということもあってか、セールスを強力に推し進めている不動産会社を多く見かけます。
はたして本当にお得なのでしょうか？現在の家賃が駐車場使用料込みで月額10万円であるケースを例に考えてみましょう。新築戸建てを購入する場合は毎月の費用として、月々のローン返済と固定資産税・都市計画税がかかるのが一般的です。仮に固定資産税・都市計画税が毎月1万円（年12万円）でローン返済が月額9万円なら、賃貸住まいと支出は変わらないことになります。
毎月9万円の返済が可能となると、返済期間35年の元利均等返済で、金利0.5%なら約3450万円借りることができます。仮にこれで購入するなら、不動産取得税や登記費用、引っ越し費用などを150万円程度と見積もって、3300万円の新築戸建てを購入すれば、現在支払っている家賃10万円と同額の負担で新築戸建てに住むことができる、ということになります。これが、一般的なセールストークです。

賃貸物件の場合、雨漏りがあったり、給湯器が壊れたりした場合、大家さんがその修繕費や交換費用を全て負担してくれます。賃貸アパートなどを保有している大家さんは、アパートを建築してから15年から20年もたつと、屋上や壁、ベランダの防水工事を行う必要に迫られます。これも大家さんの負担となりますが、大家さんは賃料収入から修繕費用を賄いますので、賃貸物件の修繕費は毎月の家賃の一部に含まれていると考えることもできます。
自分の住まいを購入した場合は、自分でこうした修繕費を支払うことになります。問題は、新築戸建ての修繕積として毎月どの程度貯蓄しておくべきか、という点です。年間で建築費の1%程度積み立てるとどうなるでしょうか。現在の建築費に鑑みれば、延べ床面積100平方メートル程度の木造2階建ての一戸建ての建築費は1700万円から2000万円程度と想定されます。つまり年間17万円から20万円貯蓄する必要があるということです。
建物を最低限維持するためには、屋根と壁の防水工事を15年に1回程度実施したほうがよいとされています。屋根と壁の防水工事は、一般の戸建てであれば、劣化状況や隣地との間隔、前面道路の幅員や接道状況などにもよりますが、150万円から200万円程度かかると考えられます。年間1%の積み立てをしておけば、これ以外に水回り機器の交換、給湯器の交換なども可能になってきます。
もし現在の家賃と同額の支出で、修繕費用を積み立てつつ新築戸建てを購入するなら、月々のローン返済額は7.6万円程度まで、借入額は2930万円程度まで下げる必要が出てきます。

こうした維持修繕をしないという選択肢もあります。しかし、子育て期に新築戸建てを購入し、子供が社会人になってしばらくすると、駅近のマンションに買い替えたいと考える方も少なくありません。この場合、築二十数年の中古の戸建て住宅を売却することになります。その時、維持修繕をきちんとしてきたかどうかが、中古住宅の価格に影響する可能性が大きいのです。

きちんと維持修繕してきた中古の戸建ては、売却の際に差別化ポイントとしてアピールすることができます。最近は、中古住宅を検討する買い主もインスペクション、すなわち建物状況調査を実施するなどして、今後かかる修繕費用を見積もった上で購入する、という人が増えています。そうなると、きちんと維持修繕をしてきたかどうかが建物価格に反映されやすくなります。資産価値を保つ、売るときの競争力を保つという意味でも、修繕費を考えておくことは重要です。
 【2024年7月29日　日経新聞より抜粋】

賃貸と持ち家、それぞれにメリット・デメリットがあります。同じ戸建て住宅を購入しても、同じ家賃の家を借りても、かかるコストは人それぞれです。コストやリスクについてしっかりと比較・想定し、自分に合う住まいの計画を立てることが重要となります。
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